レミフェンタニルによりシバリングは増えるのか?
珍しくリクエストを受けたので,まじめに答えます.
まず,レミフェンタニルによりシバリングは増えるのか?という命題に対する答えですが,宇部興産病院の森本先生のアンケート調査ではどうも,はっきりした結果ではありませんでした.2007年にKomatsuらが発表したmetaanalysis-reviewがあります(Anaesthesia 2007,62,1266-80).この中では,レミフェンタニルがシバリングを起こすオッズ比は他のオピオイドと比較した場合2.15(1.73-2.69,P<0.00001)となっていて,レミフェンタニルを使うとシバリングの発生率は2倍になることになります.
なぜシバリングが起きるのかについては,4つの説があります.他にもあるかもしれません.
1)レミフェンタニルの濃度低下が急峻なため,体温調節反応が強い形であらわれてしまう,とする説.
オピオイドは体温調節反応を抑制します.正常時には体温はセットポイント付近に厳密にコントロールされていますが,オピオイド投与によりセットポイントからずれていても体温調節反応が抑制されていてシバリングが起きない状態になっています.手術が終了してレミフェンタニルの投与を中止すると,速やかにレミフェンタニルの濃度が低下するためすぐに体温調節反応が有効となり,このとき体温がセットポイントからはずれていると,身体は速やかに体温を戻そうとしてシバリングをおこす.が,他のオピオイドでは濃度低下がゆっくりなので体温調節反応もゆっくりと起きてくるから急激なシバリングという形にはならない,とする説です.
2)このふるえはシバリングではなく,痛みに対する交感神経系の反応として起きてくるものである,とする説.この場合は,ふるえの周波数が異なっているとされています.
3)レミフェンタニルは高濃度投与から,急速に濃度が低下するので退薬症状としてふるえがおきている,とする説.
4)手術中は高濃度レミフェンタニルがサイトカインを抑制しているが,この抑制がとれるとサイトカインによるふるえが発生するとする説.
上の機序から考えると,予防法としては4つあります.
1)レミフェンタニルを含めたオピオイドの濃度が急激に下がらないようにする.
2)体温を正常に保つ.
3)十分な術後鎮痛をおこなう(1と同じかな?).
4)サイトカインによるふるえ対策としてNSAIDsを使う.
ペチジンですが,私は予防的に使ったことはありませんが,シバリングしている患者に投与すると目の前でシバリングが止まりますから,明らかに有効です.0.5~2mg/kg投与しなさいと書いてあります.1アンプル35mgですから,私はだいたい1/2アンプル投与して,しばらく様子を見て止まってきたらそれ以上は使いません.ペチジンがなぜ有効なのかと言うことを明確にした説明は,はっきりとは知らないのですが,体温のセットポイントを変更するためだとされています(違っていたら,どなたかつっこんでください).
フェンタニルと併用しても特に問題はないはずですが,鎮痛作用はモルヒネの1/8とされていますからかなり弱いので術後鎮痛としてはあまり期待できません.半減期は3.5時間です.ただし,経験としては術後鎮痛にモルヒネ静注を選択した患者でペチジンを使用した際に,遅発性の呼吸抑制が来たことがあります.これは,単純にモルヒネの最大効果発現時間の成果もしれませんが,いちおう注意しています.
もう一つ,塩酸ペチジンを使用するにあたって注意が必要なのは,うつ病の患者さんです.術前からMAO阻害薬,SSRIなどを服用している患者に塩酸ペチジンを投与するとセロトニン症候群を起こすことがあります.この場合患者さんは不穏になり錯乱状態となり逆に振戦や異常反射が見られるようになります.歯科麻酔領域では死亡例も報告されています(N Engl J Med 1988, 318 771-5).要注意.うつ病患者の場合は使用せずにシバリングの自然回復を待つ方が安全だと思います.
はじめまして。
マグネシウムはいかがでしょうか?予防効果については臨床麻酔32巻3号にMg含有輸液の術中使用でシバリングが減少したという論文がでてますが、
確かに実際起こったシバリングには数回ですが使ってみて非常に有効だった経験があります。
ところで、以前「北海道心臓麻酔同好会」で、先生はほとんどフェンタニルを使わずレミフェンタニルで心臓麻酔をしていると仰ってましたが、
レミフェンタニルを切った後に著名な高血圧(Aラインだけでカフの圧とは差がある)になったりはしないでしょうか?
私自身は手術終了の結構前にレミフェンタニルを切り、フェンタニルをある程度使い、さらにぺルジピンを使ってICUまで連れて行くようにしていますが。
January 4th, 2009 | #
坪川先生へ
ていねいに答えていただきありがとうございました。
とても参考になりました。
January 4th, 2009 | #
はまぐりさん,こんにちは.
マグネシウムは,私は使ったことがないのですが,論文には有効であると書かれていますよね.予防という意味で有効なのだと思っていました.Shiveringの閾値を下げると書かれたものや,臨床的には効果が少ないと結論しているものもあります.
ただ,Ryu(BJA 2008,100,397-403)では,術後PCAの消費量,PONV,Shiveringを減らし,副作用はなかったと言っています.いいことづくめです.
50mg/kgのボーラスに続いて,15mL/kg/hourだそうです.抗不整脈作用,心筋保護作用など考えるとさらに応用は拡がるかもしれません.
さて,レミフェンタニルとフェンタニルの件ですが,どうも誤ってつたわったのかもしれません.術中鎮痛としてはフェンタニルを使うことはほとんどないのですが,術後鎮痛としてはtransitional opioidでフェンタニルを使います.いきなりレミフェンタニルを切ったりはしません.
先生のような場合(つまり抜管しないでICUに運ぶときには),フェンタニルの持続がかならず入っていますし,血圧が上がりそうな症例ではペルジピンではなくて,オノアクトの持続静注ですね.
今はフィリップスの薬物動態シミュレータがかなり完成に近づいてきたので,これを使って投与設計をします.こんどのウィンターセミナーでこの部分をお話しさせていただこうと思っています(宣伝です).
January 4th, 2009 | #
丁寧にお答えくださいまして、ありがとうございました。
私の少ない経験ですが、マグネゾール1Aを100ml/hで投与して、半分くらい入った頃には止まっているという感じでした。
御指摘の文献、まだ読んでませんでした。私はミラーで読んでつかってみてました。
心臓麻酔のフェンタニルの件、私の聞き違いで失礼致しました。
オノアクト、術者がいい印象をもってなくて使いにくいんですね・・・私の施設。
どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
January 5th, 2009 | #